LOGINレインからの返事が届いたのは、手紙を出してから六日後だった。
六日は、いつもより長かった。 エリナは特に気にしていないつもりだったが、四日目にルナから「また窓の外を見てる」と言われて、気にしていたのかもしれないと思った。 封を開けると、いつもより厚かった。エリナへ
返事が遅くなった。師匠と話し合いに時間がかかった。 まず、学院のデータを最終報告の中心に据える件について。師匠と確認した。 学院の医療棟での記録は、過去一年分がある。術後感染率、処置前後の状態比較、消毒液を使用した症例と使用しなかった症例の比較。これを系統立てて整理すれば、「王都での成果」として提示できる形になる。 師匠が言うには、「この数字は、魔法師団長が見ても否定しにくい規模になっている」とのことだ。王宮への報告の場で、師匠自身が発言できる立場にあるかどうかも、今確認中だ。 成分分析の件。学院の採用議事録の写しを、念のため師匠が手元に持っておくことにした。公文書は書き換えられないが、「紛失した」と言われる可能性はゼロではない。複数の場所に記録を残しておく方が安全だ。 それから、「重い時に当てはまるか」という問いについて。 残り四ヶ月という数字が頭の中で重くなっている、という話。それは、俺が言った『重い時』とは少し違うと思う。 俺が言った重い時は、自分の力が足りないという感覚だ。お前が感じているのは、時間の重さだ。それは違うものだ。でも、重さを感じているという点では、同じかもしれない。 一つだけ言う。時間の重さは、動くことで少し軽くなる。お前はすでに動いている。だから、今感じている重さは、動けていない重さではない。動いているから感じる重さだ。それは、少し違う。 最後に。 『今日、笑った』という一行を、次の手紙に書こうと思っている、とお前が書いてくれた。 それを、楽しみにしている。 ――レイン――エリナは手紙を読み終えて、少しだけ止まった。
動いているから感じる重さだ。それは、少し違う。 その一行が、頭の中でゆっくりと動いた。 動けていない重さではない。 言われるまで、そう考えたことがなかった。重さは重さだと思っていた。でも、重さの種類が違う、とレインは言った。 前世でもそういう経験があった気がした。締め切り前の重さと、何もしていない時の重さは、確かに違った。前者は、進んでいるから感じる重さだ。 それを、レインに言われた。 『笑ったことを楽しみにしている』という最後の一行を、もう一度読んだ。 楽しみにしている。 その言葉が、少しだけ、胸の奥で静かに鳴った。返事をすぐに書こうとして、少し止まった。
『今日、笑った』を書こうと決めていた。でも、今日書くより、何か笑ったことがあった日に書く方がいい気がした。 約束した一行を、本当のこととして書きたかった。 だから、返事は今日ではなく、何か笑ったことのある日に書くことにした。 そう決めて、手紙をたたんだ。師匠の発言の件と、議事録の写しの件は、すぐにゴードンに共有した。
「師匠が最終報告の場で発言できるかもしれない、ということですね」 「確認中ですが、その方向で準備を進めてほしい。師匠が発言する場合、どういう形が効果的か、レインと相談します」 「学院側の人間が王宮の場で発言するとなると、形式的な準備が必要になる可能性があります。アルバ殿下に確認しておく方がいいかもしれません」 「フィオナに頼みます」 「議事録の複数保存については、こちらでも動きましょう。王宮への定期報告書の中に、採用の経緯を詳細に記録しておく。それと——、ベルダン会頭に、ロッソ商会独自の記録を残してもらうこともできますか。民間の商会が独自に持っている記録は、また別の重みを持ちます」 「それは思いつきませんでした。次にベルダンと会う時に、お願いします。いや、手紙で先に打診する方が早い」 「そうですね」 ゴードンがすぐに動いた。 エリナも、フィオナへの手紙とベルダンへの手紙を並行して書いた。昼過ぎ、マリオが外から戻ってきた。
「なあ、エリナ」 「何?」 「グレンさんから聞いたんだけど、最近、市場の人たちの間で話題になってることがある」 「どんな話ですか?」 「石鹸と薬草薬の話じゃなくて、お前の話」 「私の話?」 「そう。アッシュフォード商会の子どもが、王様に会いに行ったとか、えらい貴族と渡り合ってるとか、そういう話が市場で流れてる」 「それは、困ります」 「なんで。みんな、応援してるっぽいぞ」 「応援されることは悪くない。でも、個人の話が広まると、焦点が商品から外れる。重要なのは石鹸と薬草薬の効果であって、私ではない」 「そういうもんかね。でも、止めるのも難しいよ。口コミはどこに広がるかわからない」 「止める必要はないかもしれません。ただ、商品の話が中心にあることを、常に意識してもらう必要がある」 「マグダさんとかに言っておくか?」 「お願いできますか。石鹸の話をする時に、私の話ではなく、効果の話を中心にするよう、さりげなく」 「わかった。さりげなく、ね。俺、さりげなくが苦手なんだよな」 「知っています」 「あ、ひどい」 「でも、マリオは正直だから大丈夫です」 「どういう意味だよ」 「正直な人間の話は、信頼される。技巧がなくても、正直さで補える」 マリオがしばらくエリナを見て、それから照れくさそうに頭を掻いた。 「そういうこと言うのも、最近増えたな」 「そうですか」 「うん。前は、もっと淡々としてた」 「変わりましたか」 「変わった。悪くない変わり方だと思う」夕方、ルナが薬草の仕分けをしながら、珍しく先に口を開いた。
「エリナ」 「何?」 「今日、笑った?」 エリナは少し止まった。 「なぜ聞くの?」 「この前、今日笑ったって書きたいって言ってたから」 エリナはルナを見た。 ルナが聞いていたのか、あの話を。 事務室で独り言のように言ったのか、それともルナが近くにいた時に言ったのか、覚えていなかった。 「聞こえてたの?」 「聞こえた。書けたか確認しようと思って」 「まだ書いていません。笑ったことがある日に書くと決めたので」 「じゃあ、今日、笑った?」 エリナは少し考えた。 今日、笑ったか。 マリオが「さりげなくが苦手」と言った時、少しだけ笑った気がした。声には出なかったが、笑った。 「少し笑いました」 「じゃあ、今日書けるね」 「そうですね」 「よかった」 ルナが薬草の仕分けに戻った。猫が一匹、棚の上から降りてきてルナの膝に乗った。 エリナは少しだけ、ルナの横顔を見た。 この子は、いつも少ない言葉で、必要なことを言う。 今日も、そうだった。夜、エリナはレインへの返事を書いた。
レインへ 『動いているから感じる重さだ』という言葉を、受け取った。言われるまで、重さの種類が違うとは考えていなかった。でも、言われてみれば、確かに違う。ありがとう。 学院のデータと師匠の件、ゴードンさんと動き始めた。議事録の複数保存も、フィオナとベルダンに打診した。準備が、少しずつ形になっている。 それから。 今日、笑った。 マリオが「さりげなくが苦手」と言った時だ。声には出なかったが、笑った。ルナに確認されて、気づいた。 笑ったことを、あなたに知っていてほしかった。 一年後の約束、残り四ヶ月を切った。 ――エリナ―― 書いて、封をした。 『笑ったことを、あなたに知っていてほしかった』という一行を、書く前に少し迷った。 迷ったが、書いた。 レインが『楽しみにしている』と書いてくれた。 楽しみにしてくれているなら、届けるべきだと思った。 それだけのことだ。机の上に、今日書いた手紙が三通並んでいた。
フィオナへ。 ベルダンへ。 レインへ。 三方向に、それぞれ違うことを書いた。でも、どれも本当のことを書いた。 フィオナには、議事録の件と師匠の発言の件。それと、「一緒に迎えたい人の一人だ」という言葉の続きとして、「あなたがいてくれることが、どれだけ大きいかわからなくなってきた」と書いた。 ベルダンには、ロッソ商会独自の記録を残してほしいという打診と、一年後の報告に向けた現状の簡単な共有。 レインには、今日笑ったということ。 三通を並べて、エリナは少しだけ考えた。 届けたいことがある。 それぞれに、違う形で。 でも、届けたいと思っている。 一年前には、届けたいという気持ちが、こんなにはっきりしていなかった。 変わった。 マリオが言っていた通り、変わった。 悪くない変わり方だと、自分でも思う。 ランプを吹き消した。 部屋が暗くなった。 窓の外、ルシェムの夜は静かだった。 風が少しだけ、冷たくなっていた。 季節が変わっている。 残り四ヶ月が、一日ずつ減っている。 でも、積み上がるものも、一日ずつ増えている。 それで、今夜は十分だ。 エリナ・アッシュフォード、八歳。 今日、笑った。 その事実を、届けた。 それが今夜、一番大事なことだった。フィオナがルシェムに来たのは、謁見から二週間後のことだった。 予告なしだった。 朝、市場から戻ったマリオが、息を切らして事務室に飛び込んできた。 「フィオナさんが来た」「どこに?」「市場の入り口。馬車で来てる。荷物が多い」「荷物が多い?」「トランクが二つある」 エリナは少しだけ止まった。 「泊まりではなく、しばらくいるつもりですか」「そういうことじゃないか? 迎えに行くか?」「行きます」 市場の入り口に着くと、フィオナが馬車の横に立っていた。 久しぶりに、ルシェムで見るフィオナだった。 王都で会った時とは少し違って見えた。服装は変わらないが、顔が少し違う。 疲れている、と手紙に書いていた。 確かに、少し疲れた顔をしていた。 でも、エリナを見た瞬間、目が変わった。 「来た」「来ましたね、予告なしで」「予告したら、準備されすぎると思って。あなたのことだから、部屋を完璧に整えて、食事まで用意して待っていそうだから」「そうしようとしていました」「でしょう。だから、言わなかった」「荷物が多いですね」「しばらくいようと思って」 フィオナが少しだけ声を落とした。「王都からの仕事は、手紙でできる部分も多い。しばらくルシェムで動きながら、こちらの空気も吸いたかった」「どのくらい?」「一週間か、二週間か。決めていない」「決めなくていいです。いたいだけいてください」 マリオが荷物を運んでくれた。 フィオナが見ると、少し驚いた顔をした。 「マリオ、大きくなった?」「なってないと思うけど、フィオナさんが久しぶりに会うから大きく見えるだけじゃないか?」「そうかもしれない。でも、なんか違う。顔が違う」「どう違う?」「前より、落ち着いた顔をしてる」「そうかな」
翌日から、エリナは動き始めた。 といっても、急いでいるわけではなかった。 落ち着いて、一つずつ。 謁見の翌日以降に何をするかは、帰り道の馬車の中でゴードンと話し合っていた。 優先順位は決まっていた。 一つ目、商会の代表変更の正式書類を処理する。二つ目、各町の現場責任者に謁見の結果を報告する。三つ目、フィオナと連携して規制案の継続審議への対応を続ける。四つ目、学院の衛生教育の検討に、商会として協力できることを提示する。 どれも、急ぎではない。 でも、止まってもいない。 まず、商会の代表変更の書類が届いた。 アルバ殿下が約束した通り、一週間以内に書状が来た。 正式な書類に、エリナ・アッシュフォードの名前が入っていた。 アッシュフォード商会の代表者、エリナ・アッシュフォード。 ゴードンがその書類を机の上に置いた。 「これで、正式になりました」「そうですね」「どういう気持ちですか?」 エリナは少しだけ考えた。 「思っていたより、静かな気持ちです」「静か、とは」「もっと大きな感情が来ると思っていた。でも、静かだった。当たり前のことが、形になった、という感じです」「それが、正しい感覚だと思います」ゴードンが静かに言った。「当たり前のことを積み上げてきたから、当たり前に形になった」「ゴードンさん」「はい」「代表名義をずっと引き受けてくれていた。本当にありがとうございました」「礼はいりません。でも、受け取ります」 それだけだった。 それで十分だった。 次に、各町の現場責任者への報告をした。 マグダ、シェナ、ジルカに、それぞれ手紙を書いた。 謁見の結果。陛下が約束を守ってくれたこと。商会の活動が引き続き認められたこと。今後も続けることができること。 返事は、それぞれ三日以内に来た。 マグダから。 エリナちゃん
ルシェムに帰った翌朝、エリナはいつもより少しだけ遅く起きた。 目が覚めた時、空はすでに明るかった。 珍しいことだった。 いつもは夜明け前に目が覚める。でも今朝は、光が差し込んでから目が開いた。 しばらく、布団の中でそのままいた。 これも珍しいことだった。 起きたら、すぐに動く。それがいつものエリナだった。 でも今朝は、少しだけそのままいた。 窓の外から、ルシェムの朝の音が聞こえた。 市場へ向かう人の足音。遠くで犬が吠える声。風が木の葉を揺らす音。 帰ってきた、と思った。 昨日も思った。でも、今朝も思った。 ここが、自分の場所だ。 台所に行くと、セレーナが先にいた。 「おはよう」「おはようございます」「よく眠れた?」「はい。遅くまで眠っていました」「そう。今日くらいは、いいんじゃない?」「そうかもしれません」 薬草茶を作りながら、エリナは窓の外を見た。 冬の朝の空は、澄んでいた。 「お母さん」「うん」「昨日、ゴードンさんから聞いた話があります」「何?」「学院が、来年から衛生教育を取り入れることを検討しているそうです。石鹸の使い方、薬草薬の知識、傷の手当ての手順を、学院の教育に組み込む話が始まっている」 セレーナが少しだけ手を止めた。 「それって、どういうことになるの」「学院で教えれば、学院の生徒が卒業して各地に行く時に、その知識を持っていく。一人が届けられる場所より、ずっと広い範囲に届く」「あなたが一年でやったことが、もっと広がるということ?」「そうなるかもしれません」「お父さんが聞いたら、何と言うかしら」 エリナは少しだけ考えた。 「『私よりうまくやっている』と言うか、それとも『まだ足りない』と言うか」「この前も同じことを言ったわね」「同じこ
翌朝、エリナは早く起きた。 今日、ルシェムに帰る。 荷物を確認した。報告書の写し。確認書の写し。殿下から預かったアッシュフォード商会の正式な代表変更に関する書状の下書き。そして、セレーナへの手紙。 全部、ある。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく朝から饒舌だった。 「昨夜の話、全部聞かせてもらうって言ったけど」「聞きますか?」「聞く。でも、今は聞かない」「なぜですか?」「あなたの顔を見れば、大体わかるから。今日は、その顔で十分」「どんな顔をしていますか?」 ゴードンが静かに言った。 「昨日フィオナが見たかった顔」 出発前に、フィオナと二人になった。 宿の前の小さな通りで、少しだけ話した。 「フィオナ、これからどうするんですか?」「王都にいる。まだやることがある。規制案はまだ継続審議のままだ。陛下が認めたとはいえ、クロヴェルが諦めたわけじゃない」「そうですね」「でも、今日は違う話をしたい」「どんな話ですか?」「あなたが帰った後のことを、少し考えた。王都に来てからの一年間、私はずっとここで動いていた。でも、いつかルシェムに行ってみたいと思っている」「ルシェムに?」「マリオとルナに、会いたい。あなたが話してくれた人たちに。あなたが動いてきた場所を、見てみたい」「来てください、必ず」「いつ行けるかはわからない。でも、行く」「待っています」 フィオナが少しだけ笑った。 「その言葉、昨夜もレインに言ったでしょう」「言いました」「同じ言葉が、自然に出てくるようになったんだね」フィオナが穏やかに言った。「前のあなたには、なかった言葉だと思う」「そうかもしれません」「いい変化だと思う」 フィオナが手を差し出した。 エリナはその手を両手で握った。
謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。 アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」「王都のデータは、効きましたね」 殿下が少し笑った。「右側の列が、ざわついた」「見えていました」「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」「ありがとうございます」「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」 王宮の外で、師匠とレインが待っていた。 師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」「はい」「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」「ぜひ」「クロヴェルへの返答だ」 師匠が静かに言った。「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」 エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」「届きましたか?」「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」「礼
謁見の日の朝、エリナは四時間ほど眠った。 眠れると思っていなかったが、眠れた。 目が覚めた時、空はまだ暗かった。でも、もう眠れなかった。 起きて、顔を洗って、薬草茶を作った。 ルナが持たせてくれた葉を使った。 温かい湯呑みを両手で持って、部屋の窓から外を見た。 王都の夜明け前。 ルシェムとは違う空の色だった。でも、夜明け前が静かなのは、どこでも同じだった。 今日、謁見の間に立つ。 もう一度、確認した。 怖い。でも、届けたい。 それだけでいい。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく静かだった。 いつもは何か言う人だが、今朝は食べながらあまり口を開かなかった。 エリナが「どうかしましたか?」と聞くと、フィオナが少し笑った。 「緊張してる」「フィオナが?」「私も人間だから。あなたが緊張するより、私が緊張してる気がする」「なぜですか?」「あなたが上手くいくかどうかを、見ている立場だから。自分が話すより、大事な人が話すのを見ている方が、緊張する」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 大事な人が話すのを見ている方が、緊張する。 「フィオナ」「何?」「今日、謁見の間に入れますか?」「入れない。謁見の場に入れるのは、名前がある人間だけ。私には、今は資格がない」「そうでしたか」「廊下で待ってる。終わったら、すぐ出てくるでしょう。その顔を見る」「どんな顔をしていると思いますか?」「わからない。でも、見たい顔をしていると思う」 謁見の前の十分間は、王宮の廊下の一角で過ごした。 フィオナ、ゴードン、エリナの三人。 廊下は石造りで、冷たかった。外の空気が、石を通して伝わってくる。 エリナは上着の内ポケットに手を当てた。 手紙が、ある。 フィオナが言った。 「今日の目標を、一つだけ確